一般的な税務事例と具体的な個別事例の区別

2009年07月21日
? 税法解釈でまず重要なことは何ですか?

A. 一般的な税務事例か具体的な個別事案かを区別することです。


「一般的な税務事例」と「具体的な個別事案」

「モミジさん、「税法解釈の基本」について教えてください」
「そうね。税法解釈は、(1)事実の確定、(2)法令の発見、(3)法令の適用という3つのステップを経て行われるんだけど、その前に、もっと大事な話をしましょう」

「もっと大事なことがあるんですか?」
「税法解釈の本ではあまり触れられていないことだけど、実際に今まで解釈をしてきた経験から言うと、まずは、「一般的な税務事例」と「具体的な個別事案」にしっかり区別することが何よりも重要なのね」

一般的な税務事例
・事実はある程度抽象的で、事実の確定は重要ではない
・適切に法令を発見し、適用することが重要になる
具体的な個別事案
・対象者の属性、金額や年月日などの事実の確定が重要となる
・法令をストレートに適用できない場合も多く判断を要求される
・租税回避行為に対する包括的否認規定が適用される可能性がある

「なんだか文章だけだとピンときませんが、どういう風に税法解釈に影響があるんですか?」
「どちらに該当するかによって、さっき言った(1)事実の確定、(2)法令の発見、(3)法令の適用の重要度が異なるのよ。図解するとこんな感じかしらね」

「一般的な税務事例」と「具体的な個別事案」



一般的な税務事例は、「法令の発見と適用」が命

「まずは、一般的な税務事例の方から詳しく説明しましょう。さっきの図のとおり、一般的な税務事例は事実の確定はほとんど必要なくて、法令の発見と適用が命になるわね」
「なぜ事実の確定は必要ないんですか?」

「一般的な税務事例というのは、固有名詞や具体的な金額などがほとんど出てこない世界を考えているのよ。ある意味ではQ&Aね。既に決まっているある程度抽象的なQ(質問)に対して適切に法令を発見・適用し、A(回答)を出せばすむの」
「つまり、事実の確定をしなくていいような抽象的な質問に対して回答をするような場合には、この一般的な税務事例に当たるということですね」

「そういうことね。典型的なのが国税庁が出している質疑応答事例ね。法人税の質疑応答事例の1つを見てみましょう」

特別償却の適用を受ける機械の引取運賃、据付費
【照会要旨】

 特別償却の対象資産である機械を取得しましたが、当該機械の引取運賃及び据付費についても特別償却の適用がありますか。

【回答要旨】
 特別償却の適用があります。

(理由)
 購入した減価償却資産の取得価額は、当該資産の購入代価に引取運賃、購入手数料その他資産の購入のために要した費用の額を加算した額とされていますから、本件機械の引取運賃及び据付費は、当該機械の取得価額を構成する費用に該当します。

【関係法令通達】
 法人税法施行令第54条第1項

「この例でいくと、【照会要旨】がQ(質問)で、【回答要旨】がA(回答)に当たりますね」
「そうね。でもこの例には、誰がどういう機械についていくらの引取運賃や据付費をいつ支払ったかなどの情報は全くないでしょ。いわゆる5W1Hの情報が完全ではないのよ」
「確かにそうですね」

「このように、国税庁の質疑応答事例は、各税務署などで受けた質問を他の事案でも当てはめられるように、一般的な税務事例にしているわけね」
「なるほど。確かに抽象的であるからこそ、個々の事案に当てはめることが可能になるわけですね」

「一方、同じ国税庁が出している文書回答事例は、一般的な税務事例として扱えるものもあれば、次の具体的な個別事案として扱うしかないものもあるから、注意が必要ね」
「参考にはできるけど、ぴったり当てはまるとは限らないってことですか?」
「そうよ。参考にするのは構わないんだけど」


具体的な個別事案は、「事実の確定と法令の適用」が命

「次は、具体的な個別事案をみてみましょう。ワカバくんは、両者の特徴をみて、何か感じなかったかしら」

一般的な税務事例
・事実はある程度抽象的で、事実の確定は重要ではない
・適切に法令を発見し、適用することが重要になる
具体的な個別事案
・対象者の属性、金額や年月日などの事実の確定が重要となる
・法令をストレートに適用できない場合も多く判断を要求される
・租税回避行為に対する包括的否認規定が適用される可能性がある

「なんだか、具体的な個別事案の方が難しそうですね」
「そうね。一般的な税務事例は、既に決まっているある程度抽象的なQ(質問)に対して適切に法令を発見・適用し、A(回答)を出すことが勝負だったけど、具体的な個別事案は、Q(質問)をいかに正確に設定できるかが勝負なのよ」

「正確に設定できるか? どういうことですか?」
「具体的な個別事案では、次のようなことが生ずる可能性があるのよ」

事実の誤認
 質問者又は回答者が事実を誤認していて、回答すべき質問が別にある
事実の仮装
 質問者が事実の一部を隠したり、嘘をついている
伝達の齟齬(そご)
 質問者の質問を回答者が正しく理解できていない

「え? なんですかこれ?」
「具体的な個別事案で1番怖いのは、事実が未確定だと気づかないで法令の発見・適用をしてしまうことなのね。具体的な個別事案だと判断したら、いきなり法令の発見をしてはダメよ。法令の発見や適用にかける時間の何倍もの時間事実の確定にかけなければならないの」

「つまり、Q(質問)が誤っているのに問題を解いても意味がないってことですね。例えば、Q(質問)が「1+1」だと思って、「2」というA(回答)を出したけど、実は本来解くべき問題は「3+1」だったようなときですね」
「そうなのよ。具体的な個別事案が難しいところは、Q(質問)に対して適切なA(回答)が出ても(1+1=2)、そもそもQ(質問:1+1)が誤っていれば、そのA(回答:2)は意味がないってことなのね。でもこういうことは、往々にしてあるものなのよ」

「う〜ん。既に怖さを感じますね。だって、実際の個別事案は「1+1」どころではなくてかなり複雑ですよね」
「そうね。特に登場人物がたくさん出てくるような個別事案は細心の注意が必要ね」

「でも逆に言えば、事実が確定すれば、あとは楽なんですよね」
「そんなことはないわ。法令の発見はそれほどでもないけど、法令の適用はやはり苦労するところではあるわね」

「どうしてですか?」
「法令や通達にストレートに書いてあればすぐに終わるけど、法令や通達にストレートに書いていないと、なかなか判断に迷うのよ」

「一般的な税務事例の場合には、Q(質問)自体がある程度抽象的だから当てはめやすいんだけど、具体的な個別事案の場合には、Q(質問)自体が具体的過ぎるから、要件にちゃんと当てはまるのかどうかなどを慎重に吟味しなければならないのね」
「なるほど」
「まあ、実際にどういうところに気をつけないといけないのかは、また別の機会に詳しく説明することにしましょう」

「最後に、どういうのが一般的な税務事例でどういうのが具体的な個別事案かを見分ける簡単な方法だけど、お客様からの質問は、基本的には具体的な個別事案と思えばいいわね。それから、例えば、税制改正の内容など、お客様に対する情報提供のために税務に関する解説を書くような場合には、それは一般的な税務事例と言ってもいいかもしれないわね」
「なるほど。固有名詞や固有の数字があるかないかともいえるかもしれませんね」

「そうね。裁判などでは、法令の解釈よりも事実認定、つまり事実がどうだったかを争うことが多いから、法令の解釈にあたっても、事実の確定をしっかり行うことが大事ね」
「なるほど。法規集を開く前に、自分の目で見て耳で聞いて確かめて、しっかりと基礎を築くのが大事なんですね」
「そういうことね」


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