2007年10月04日

いわゆる「三角合併」、事実上の第1号

[?] 「三角合併」とは何ですか?

A. 対価として「親会社株式」を交付する組織再編成の一種です。


(注)この記事は個人的なまとめの域を出るものではありません。参考程度に取り扱いください。


蒼矢印 「三角株式交換」第1号( -д-)ノ
 会社法は平成18年5月1日にほとんどの規定が施行されましたが、その中で、「子会社による親会社株式の交付」が1年間凍結されていました。

 平成19年5月1日以後、三角合併、三角株式交換、三角吸収分割が解禁され、その第1号が、米国の大手金融グループであるシティグループによって、行われることになりました。

 ところで、報道では、「三角合併」とか「三角合併方式」という言葉が並んでいますが、正確には合併を行わないで株式交換のみを行うため、「三角株式交換」の第1号ですね(どうでもいいことかもしれませんが、税制の観点から、あえてこだわることにしましょう)。

*登場人物*
シティ:シティ・グループ・インク(株)(米国)
CJHD:シティ・グループ・ジャパン・ホールディングス(株)(日本)
日興CG:(株)日興コーディアルグループ(日本)
日興CG株主:CJHDが約68%保有。他は外資系ファンドなどが保有

*関係図*
           100%    約68%
 既存株主―→シティ―→CJHD―→日興CG
                         ↑
              その他株主―――┘
                    約32%


蒼矢印 こんな感じなんですよ(。・ω・)ノ゙
 主人公はCJHDだと思ってください。三角株式交換で対価になるのは、CJHDの親会社であるシティ(米国)の株式です。

(1)シティが、CJHDに親会社(シティ)株式を割り当てる

             100%    約68%
 既存株主―→シティ――→CJHD――→日興CG
              (シティ株保有)   ↑
                          |
               その他株主―――┘
                     約32%

(2)CJHDは、親会社(シティ)株式を対価として、日興CG株式を取得(100%に)
           100%   約68%→100%
 既存株主―→シティ――→CJHD――→日興CG
                    ↑日興CG株式
                 (株式交換)
           シティ株式↓
                その他株主

(3)CJHDは、日興CGを完全子会社化して完成
            100%  100%
 既存株主―→シティ―→CJHD―→日興CG
 その他株主―┘


[?] あれ?親会社の株式って、もっていいんですか?

A. 条件付で認められるようになりました。


蒼矢印 親会社株式は、原則保有禁止です(;´Д`)
 会社法では、一定の場合には、親会社株式を持てるようになりました。これも大改正の1つです。

会社法135条(親会社株式の取得の禁止)
1 子会社は、その親会社である株式会社の株式(以下この条において「親会社株式」という。)を取得してはならない。
2 前項の規定は、次に掲げる場合には、適用しない。
一〜四 省略
五 前各号に掲げるもののほか、法務省令で定める場合

 この「法務省令」というのが、次の規定です。

会社法施行規則23条の1項(子会社による親会社株式の取得)
一 省略
二 株式交換法以外の法令に基づく株式交換に相当する行為を含む。に際してその有する自己の株式持分その他これに準ずるものを含む。以下この条において同じ。と引換えに親会社株式の割当てを受ける場合
三〜十三 省略

 親会社の株式を対価にして株式交換を行うには、このように、いったん、親会社(シティ)株式をCJHDに割り当てて、保有しなければなりません。この規定がなければ、そもそも三角株式交換は成立しないのです。

 そしてその親会社株式を、CJHDは、日興CGの株式をもつ株主と交換することになります。


 ポイントは、「対価は親会社株式のみでもOK」という点で、後は通常の株式交換・合併・分割と要領はほぼ同じです(もちろん、注意すべきところは増えてますが…)。


[?] なぜシティと直接株式交換しないんですか?

A. それは会社法でもできません。


蒼矢印 日本企業同士しかできない(´・ω・`)
 事実だけを良く見ていただければわかりますが、株式交換を行っているのは、日本企業のCJHDと同じく日本企業の日興CGです。
 
 株式交換は日本企業間でしか行えないため、このように、親会社株式を三角形に迂回(うかい)させる格好になるわけです。


[?] それにしても、なんでシティは三角株式交換にしたんですかね。

A. お金を使わずに完全子会社化を円滑に進めるためです。


蒼矢印 粉飾決算がまねいた第1号Σ(´д`;)
 シティは、日興CGが、不正な会計処理(粉飾決算)で上場廃止になりそうになったときに、TOBを行い、救いの手をさしのべました。これにより、日興CGは廃止を免れましたが、日本の三大証券会社の一角が、外資系に飲み込まれることになったのは、衝撃的な出来事でした。

2006年
 12月 日興CGで不正会計問題が報じられる
     東京証券取引所が日興CG株を監理ポストへ

2007年
  1月 日興の特別調査委員会が組織的な利益水増し行為への関与を認定する
  3月 シティが日興CGの友好的TOB発表(当初は1株1,350円)
     東証が上場維持を決定
     その後、買い付け価格を1株1,700円に引上げる
  4月 TOB成立。シティ、日興CG株の61.08%を取得(子会社に)
     今後も完全子会社化(100%)を含め検討と表明
  6月 シティ、日興CGの追加取得で67.19%に(2/3以上取得)

 しかしアメリカのファンドなどの一部投資家が1株2,000円の価値があると反対してTOBに応じなかったこともあり、シティが行ったTOBで取得できたのは、当初の目標の過半数を超えるだけでした。その後も少しずつ追加取得を行い、日興CG株式を100%取得しようと画策していました。

 また、TOB後、通常であれば、株価が値下がりするのですが、TOB価格を上回る株価をつけたことから、再度TOBを行うとTOBに応じた株主に対して不公平が生ずるため、他の道を模索することになりました。

 ちょうどそのときに、三角株式交換を含めた三角合併等の解禁があり、また、サブプライムローン(信用力が低い個人向け住宅融資)問題でシティは多額の損失を抱えていたため、できる限り、お金を使わないでグループ再編をしたかったというのもあるようです。

2007年
  8月 シティ、日本に100%金融持株会社、CJHDを設立
     シティからCJHDに日興CG株を移す
  9月 シティ、東証に上場申請を行う
 10月 シティ、日興CGの完全子会社化を発表
     東証、大証、名証は監理ポストへ割り当て
     10月末までに株式交換契約を締結
 12月 臨時株主総会を開催

2008年
  1月 1月末までに株式交換実施し、完全子会社化の予定

 重要なのは、CJHDを日本法人としてつくることです。これがないと、三角組織再編成は始まりません。

 三角株式交換を行った場合には、反対株主は、(1)株式交換に応じるか、(2)買い取り請求権を行使して自分が持っている株を買い取ってもらうかしかありません。つまり、お金のかかるTOBを再度行うよりも、株式交換の方がスムーズに日興CGを完全子会社化できるわけです。


[?] 適格ですか?非適格ですか?

A. 予定では適格になるようです。


蒼矢印 混ぜるな危険ヽ(#`Д´)ノ
 平成19年度税制改正以前の組織再編成税制では、三角合併等は必ず「非適格」になってしまいます。また、株式交換税制は租税特別措置法で合併等とは、異なる適格要件を課していたため、ここもなんとかしなければなりませんでした。

 そのため、平成18年度税制改正でまず、株式交換・株式移転を法人税法の規定に入れて、合併等と整合性がとれるような税制にしています。

 その上で、平成19年度税制改正で、「親法人株式のみを対価とした場合」の課税の取扱いを新しく追加しています。

法人税法2条12号の16
適格株式交換 次のいずれかに該当する株式交換で株式交換完全子法人の株主に株式交換完全親法人の株式又は株式交換完全支配親法人株式株式交換完全親法人との間に当該株式交換完全親法人の発行済株式等の全部を保有する関係として政令で定める関係がある法人の株式をいう。のいずれか一方の株式以外の資産当該株主に対する剰余金の配当として交付される金銭その他の資産及び株式交換に反対する当該株主に対するその買取請求に基づく対価として交付される金銭その他の資産を除く。が交付されないものをいう。
イ その株式交換に係る株式交換完全子法人と株式交換完全親法人との間に同一の者によつてそれぞれの法人の発行済株式等の全部を直接又は間接に保有される関係その他の政令で定める関係がある場合の当該株式交換
(略)

*大前提*
(A)完全親法人株式(CJHD)のみが交付されること

または、

(B)完全親法人の親法人(シティ)株式のみが交付されること

 つまり、シティとCJHDの株式を混合して交付すると、即、非適格です。今回は、シティ株式のみ(B)のケースですので、第1段階はクリアです。


蒼矢印 三角合併等は、要件が追加された(`・д・´)
 第2段階として、従来の株式保有要件・共同事業要件の他に、次の2つの要件も同時に満たさなければなりません。

法人税法施行令4条の2(適格組織再編成における株式の保有関係等)
14 法第二条第十二号の十六 に規定する全部を保有する関係として政令で定める関係は、株式交換の直前に当該株式交換に係る株式交換完全親法人と当該株式交換完全親法人以外の法人との間に当該法人による直接完全支配関係二の法人のいずれか一方の法人が他方の法人の発行済株式等の全部を保有する関係をいう。以下この項において同じ。があり、かつ、当該株式交換後に当該株式交換完全親法人と当該法人以下この項において「親法人」という。との間に当該親法人による直接完全支配関係が継続すること当該株式交換後に親法人を被合併法人とする適格合併を行うことが見込まれている場合には当該株式交換後に当該株式交換完全親法人と当該親法人との間に当該親法人による直接完全支配関係があり、当該適格合併後に当該適格合併に係る合併法人と当該株式交換完全親法人との間に当該合併法人による直接完全支配関係が継続することとし、当該株式交換後に株式交換完全親法人を被合併法人とする適格合併を行うことが見込まれている場合には当該株式交換の時から当該適格合併の直前の時まで当該株式交換完全親法人と親法人との間に当該親法人による直接完全支配関係が継続することとする。が見込まれている場合における当該株式交換に係る株式交換完全親法人と親法人との間の関係とする。


長い条文ですが、要するに、

(1)完全親法人(CJHD)の親法人(シティ)が、完全親法人(CJHD)の発行済株式等を直接100%保有していること(直接完全支配関係があること)

かつ、

(2)三角株式交換後においてもその親法人(シティ)による完全親法人(CJHD)の直接完全支配関係が継続すると見込まれること


 株式交換をした後に、シティとCJHDの関係が継続していることが条件です。今回のシティとCJHDの関係からすれば、株式交換後も、100%の保有関係にあると思われますので、適格要件は満たしそうですね(ただし、大雑把な検討しかここではしていないため、本当にそうなるのかは、断定できませんが)。

CJHDは、親会社(シティ)株式を簿価で譲渡
           100%   約68%→100%
 既存株主―→シティ――→CJHD――→日興CG
                    ↑日興CG株式
                 (株式交換)
           シティ株式↓簿価
                その他株主


 なお、今回の日本初の事例を担当した方たちの見解では、「非課税」、すなわち、適格三角株式交換(=課税の繰り延べ)が行われる予定のようです。

シティバンク:プレスリリース(07/10/02)

「本取引は日本の税法上、日興コーディアル及び日本の日興コーディアル株主について、原則として非課税となるよう行われることが予定されております。」

http://www.citigroup.jp/japanese/press_release/2007/20071002.pdf


 今回は触れていませんが、親法人株式を取得する株主の課税関係は、「内国法人・居住者」と「外国法人・非居住者(特にこっちが危ない…)」で異なります。

 また、包括否認規定が法人税法132条の2(組織再編成に係る行為又は計算の否認)に三角合併等を含めて整理されているため、こちらも要注意です。

 本当は他にもカバーすべきことはありますが、長すぎるので、このくらいで・・・。


 *参考文献*
財務省:平成19年度税制改正の解説[PDF]
EY:三角合併制度の導入に対応する税制改正について[PDF]
トーマツ:合併等対価の柔軟化の税務徹底研究[PDF]
トーマツ:クロスボーダーM&A[PDF]
KPMG:三角合併とは? 国境をまたぐ株式交換が可能に
読売新聞:シティ三角合併 国内M&A 新段階(07/10/03)
読売新聞:日興TOB成立 シティ、日本に本腰(07/05/01)

 なお、ニュースリリースでは、日興CGの税務は税理士法人トーマツが、シティGの方は新日本アーンストアンドヤング税理士法人が務めたようですね(参照:「税金まにあ」木村税務会計事務所通信)。上記で参考にさせていただいたレポートも、両者のものは、たしかに丁寧に解説されていましたね。この記事を書かれた方が関わったかどうかはわかりませんが、可能性は高そうです。

加えて、特別委員会は、当社(著者注:日興CG)が選任した税務アドバイザーである税理士法人トーマツ(デロイト)からは、本株式交換に関する税務上の問題についての意見聴取を行いました。

 一方、特別委員会は、本株式交換の相手方当事者側となるシティ・グループ、シティグループの法務アドバイザーであるPaul,Weiss,Rifkind, Wharton&Garrison LLP及び西村あさひ法律事務所、シティグループの税務アドバイザーである新日本アーンストアンドヤング税理士法人等との間で、直接、本株式交換についての質疑応答を行いました。
NIKKEI NET:日興コーディアルグループ、米シティグループと株式交換で基本契約書を締結


 いずれにせよ、これからいろんな方が税務雑誌に記事を書かれることと思いますが、それによっては、三角合併等の問題点も明らかになってくるかもしれませんね。


 *疑問点*
□なぜシティはCJHDを通じて2/3以上持ってるのに完全子会社化したかったのか
□シティは貯蓄国家日本で本当にやっていけるのか
□三角合併等は、今後増えるのか
□敵対的三角合併等はいつ起こるのか
□仮にシティが東証に上場したら旧日興CG株主は得をするのか



双葉更新履歴
 [2007/10/03 初投稿]
 [2007/10/04 参考文献ほか追加]



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この記事へのコメント

8. IKE    2007年10月06日 11:41
三角食べ・・・

別ジャンルって何でしょう。楽しみにしています
7.  kimutax@税金まにあ    2007年10月05日 21:27
給食の三角食べすらできなかった私

いわんや三角合併の解説なんて…と逃げてましたが

IKEさんのブログ記事を読んで

うーん(・・;)がんばらなきゃと思いました。

(^^ゞと、いっても、三角合併ではとても太刀打ちできそうにないので、別のジャンルで挑戦してみます!いやはや、まいった
6. IKE    2007年10月04日 20:27
かつおさんへ
ありがとうございます。

>CJHDは完全親会社の割当株式の資金をどうやって調達するんでしょうねー?

たしかに不思議ですね・・・。
そういうところにきちんと答えられないところが、このブログの限界なのでしょう(T T)
5. かつお    2007年10月04日 20:13
CJHDは完全親会社の割当株式の資金をどうやって調達するんでしょうねー?

ふしぎです。

それにしてもお疲れ様です。
4. IKE    2007年10月04日 18:16
こんな記事を書くと、仕事になりません・・・orz
たまになら、いいかもしれませんが、こりゃ毎日書けるものではありませんね。
ちなみに、mihimaru聞きながらノリノリで書いてました。。。
3.  かや    2007年10月04日 08:13
あ〜…、「税務会計系」って本来ならこんな記事書かないといけないんでしょうね…。

mihimaruにうつつを抜かしてる場合じゃないなぁ…(汗)
2. IKE    2007年10月03日 23:12
仕事が終わってから、4時間くらいかけて、書きました。
時事ネタを解説するブログを真似してはいけないな、と実感しました(>_<)

やはりおとなしく、マイペースで行くことにしましょう・・・。
1. DOOR5296    2007年10月03日 22:49
この日のために、この記事を温存していたの?

私には、一日でこんな記事は書けませんから
そう感じたまでです。(-_-;)

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